金沢地方裁判所 昭和41年(ヨ)238号 決定 1966年11月15日
申請人 豊田定公
右訴訟代理人弁護士 梨木作次郎
同 豊田誠
同 吉田隆行
被申請人 北陸鉄道株式会社
右代表者代表取締役 野根長太郎
主文
申請人が被申請人に対し雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定める。
被申請人は申請人に対し、昭和四一年九月二九日以降本案判決確定に至るまで毎月二五日限り、金三〇、三三〇円を支払え。
申請人のその余の申請を却下する。
申請費用は被申請人の負担とする。
理由
本件仮処分申請の趣旨および理由は仮処分命令申請書記載のとおりである。
よって案ずるに、疎明によれば次の事実が認められる。即ち、申請人は昭和三六年三月以降被申請人会社に雇傭されてバス運転の業務に携わっていたものであるところ、被申請人会社は昭和四一年九月二八日付をもって申請人に対し懲戒解雇の意思表示をした。被申請人会社が右懲戒解雇の理由とするところは、申請人は同年八月三一日勤務終了後の一四時一〇分頃から、同じく勤務を終了した従業員仲間の橋場泰浩と囲碁をはじめ、一九時過ぎまでこれを続けていたが、申請人は連敗したため腹を立て右橋場を足で蹴るなどの暴行を働き、同人に対し全治七日間を要する右大腿部挫傷の傷害を負わせて同人をして五日間欠勤させるに至ったもので、これは被申請人会社の懲戒規定にてらし懲戒事項10号の「暴行、脅迫、その他類似行為をもって他人の心身を迫害し、その業務の遂行を妨害したとき、または職務上の規律を著しく乱し、あるいは乱そうとしたとき」に該当するというものである。
申請人は右の解雇理由たる事実は真実に反するもので、暴行を受けたのは申請人のほうであると主張するが、その点はしばらく措くとしても、右懲戒事項の定めは一般的抽象的であり、かつ、これに対応する懲戒の種類も出勤停止、降給、降職、解雇と段階的であるところから、具体的事案において最も重い処分である解雇を選択するには、当該非行の程度が著しく高い場合あるいは情状が極めて悪い場合でなければならないものと解される。ところが、本件懲戒解雇についてみるに、被申請人会社において前提としている申請人の前記行為自体についてみても直ちに懲戒解雇をもって臨むことを相当とするほどのものであるか否かは疑わしいのみならず、疎明によれば、申請人と前記橋場とのいさかいにおいては、むしろ橋場の側にかなりの責められるべき点のあったことが一応認められる。
そうすると、被申請人会社のなした本件懲戒解雇は一方的に申請人のみを責めるものであるから酷に過ぎ、ひいては就業規則中の懲戒規程の適用を誤った違法な解雇として無効であることがうかがわれ、この点につき疎明があったものといわなければならない。
さらに疎明によれば、申請人は被申請人会社から支給される給料をもって生活を維持していたものであり、本案判決による救済を受けるまで給料の支払を受けられないときは生活に窮し、回復し難い損害を蒙るおそれがあるものと認められる。
よって、本件仮処分申請は、雇傭契約上の仮の地位を定めること、および昭和四一年九月二九日以降毎月二五日限り基準賃金である金三〇、三三〇円の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当として却下することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 清水信之)